新しい研究によると、天の川銀河(銀河系)のすぐ外側には“見えない銀河”が潜んでいる可能性があるという。
アメリカ、カリフォルニア大学バークレー校の天文学者スカニヤ・チャクラバーティ(Sukanya Chakrabarti)氏は、矮小“銀河X”が見えない理由をそのコンパクトなサイズよりも、観測しづらい位置関係と、計り知れない量の暗黒物質が原因だと述べている。
暗黒物質は他の天体が受ける重力的影響を調べる以外に検出方法がない不可視の物質で、宇宙の質量の80%以上を占めると考えられている。
チャクラバーティ氏が考案した手法は、160年前に海王星の存在予測に貢献した方法と似ている。海王星は、その重力の影響を受けて揺らいだ天王星の軌道変化により確認された。
同氏は銀河系の外縁部でガスの重力摂動を検出し、約26万光年先の宇宙に未知の矮小銀河が存在すると結論付けた。銀河Xの推定質量は銀河系のわずか1%だが、それでも伴銀河としては3番目に大きい。1、2番目は大小2つのマゼラン雲で、それぞれXの10倍ほどの質量を持つ。
もしXが存在するとしても、暗黒物質だけで構成されているわけではない。「薄暗い恒星も混ざっているだろう。どこを捜索すべきかわかった以上、そのわずかな光を検出できるはずだ」とチャクラバーティ氏は言う。「暗黒物質から成るXがこれまで観測されなかったのは、銀河系の円盤と同じ平面上にあるからだ。ガスやちりの雲は観測の妨げになる」。
今後は、銀河Y、銀河Zが次々見つかる可能性がある。「大きさは普通の暗黒銀河を検出するテクニックだが、銀河系の1000分の1程度の質量しかない薄暗い矮小銀河も検出できるはずだ」とチャクラバーティ氏は主張する。
テキサス州の天文学者で暗黒物質を専門とするデイビッド・プーリー氏は、「遠方宇宙を漂う暗黒物質の分布図作成プロジェクトにも役立つ」と第三者の立場でコメントしている。
「暗黒物質の研究は分布図作成の段階に入った。どんな情報でも喉から手が出るほど欲しい」。同氏は、科学者の研究費確保を支援する民間企業エウレカ・サイエンティフィック(Eureka Scientific)に在籍している。
どこを捜索すべきか明らかになった銀河Xだが、ちりの雲を見通す赤外線望遠鏡を使おうとチャクラバーティ氏は考えている。「薄暗いヘッドライトが霧の中に紛れていても、だいたいどの辺に車があるのかわかっていれば、高い確率で見つけられる」。
同氏も自ら捜索したいと考え、数カ月以内に大型の赤外線望遠鏡を利用できないか手を尽くしているところだ。
たとえXを確認できなくても、それはそれで興味深いという。研究チームの計算を狂わす正体不明の別の天体を期待できるからだ。銀河系を取り巻いていると考えられる暗黒物質の暈(かさ)が、予期せぬパターンで分布しているのかもしれない。チャクラバーティ氏によると、「非常に基本的な情報さえまだわかっていない」という。
銀河Xの研究は現在、「Astrophysical Journal」誌で掲載が保留されている。
Photograph by Wally Pacholka, TWAN